仮想現実 × 古典籍の可能性

先日、XR創作大賞に架空のARグラスアプリを出してみたのだが、せっかくなので、以前実際に作ったAR作品から、自分が思い描く仮想現実の未来についても語ってみたい。

作品「AR切り絵百鬼夜行絵巻」について

東京大学総合図書館所蔵の「百鬼夜行図」をもとに、全長5mの切り絵絵巻を制作した。
これは、専用アプリをスマホやタブレットでダウンロードして絵巻にかざすと、ARで妖怪たちが動き出す作品である。

絵巻特設サイトをPCなどで表示し、そこにアプリをかざしても見ることができる。

iOSアプリ
Androidアプリ


なぜAR×古典籍作品を作ったか

私は大学時代、日本文化を専攻していた(まったくエンジニアと関係ない分野なのでよく驚かれる。明治期日本のロシア正教の普及について研究していた)。
在学中、図書館にはいろいろな面白い資料があるにもかかわらず、なかなかそのことが知られていなくて、ただ本を借りるだけの場所になってしまっているのがもったいない、もっと人と資料、人と情報をつなげられたらいいな、と思って、大学卒業後は図書館員になった。

それから紆余曲折あってエンジニアになり、ARやVRの作品を作るようになったのだが、この「人と情報を繋ぎたい」という思いは常に自分の中にあった。

そうして生まれたのがこの作品である。
古典籍と言うだけでなんとなく難しそう、面倒くさそう、縁遠そう、と思う人たちが、ARで遊んだことをきっかけに、興味を持ってくれたらいいな、という思いで制作した。


XR(仮想現実)×古典籍

将来、ARやVRを使って、日本の古典籍をどのようにハックできるだろうか。
いくつか考えてみた。

AR×くずし字の翻刻

ARを使って、くずし字で書かれたものがリアルタイムで活字に翻刻されるアプリができたらいいなと思う。
現在、キャプチャを撮って翻刻してくれるアプリがあるほか、くずし字のOCRサービスなども色々出てきているので、ARでリアルタイムに判読できるようになる日もそう遠くはないと思う。

明治より前に作られた和本は200万点ほどあるが、その中で現代人でも読めるよう活字化されたものは1%に過ぎず、くずし字で書かれた和本をすらすら読める人は、3000人から多く見積もっても5000人、と言われている(中野三敏先生の講演内容より)。
それだけの量の本の中身にアクセスできるようになれば、日本文化研究も進むだろう。それに、何より面白くてワクワクする。

ただ、くずし字は一音一字の対応ではない(例えば「あ」という音に対して、「安」「阿」「愛」などの字が当てられうる)点や、濁点と句読点の判別がつきにくく、前後の文脈を捉える必要がある点など、いくつか実装の課題はあるかもしれない。

逆に、現代の活字で書かれているものをくずし字に変換するAR、というのも、くずし字の勉強になって面白いだろう。


AR/VR×江戸名所図会

錦絵(浮世絵の多色刷り木版画)には江戸の名所が多数描かれてきた
それをARで実際の空間に重ねて見たり、VRでその中を歩けるようにしたりすると楽しいと思う。特にVRでは、江戸の街並みを再現した空間で、当時の実際の暮らしや娯楽を体験できるようなゲームも作れるかもしれない。

ちなみに、先に上げたくずし字翻刻アプリを使って、和本を読むスキルを身につけられれば、こうしたゲームを開発するにあたっての時代考証もより緻密にできるようになるだろう。


VR×古典籍資料室

一般的な図書館・資料館では、特に古くて貴重な古典籍は、気軽に閲覧することが難しい。
また一般的なデータベースは、探す資料が決まっている時は使いやすいが、なんとなく気になる資料をブラウジングで探す、ということが難しい。

VR古典籍資料室は、おそらくその両方の問題を解決すると思う。
VR空間内に配置された資料なら、手にとって眺め回したり、近づいて細かいところまで見たりすることが可能だろう。また資料室内を歩き回って、たまたま面白い資料を見つけることだって可能だ。

また、著者名、分類、制作年代などの書誌情報で並べ替えたり、幅広いキーワードで絞り込んだ資料のみ表示したり、本棚を動的に、しかも一瞬で操作することも可能だろう。


自分の作品づくりの展望

とはいえ、古典籍というちょっとマニアックなテーマを取り上げたので、ここまで書いてきた内容にワクワクする人は少ないかもしれない。

だから、自分の作品を通じて、日本の古典籍に興味を持つ人、XRで日本文化を楽しむという展望にワクワクする人が一人でも増えたらいいな、と思う。

冒頭で取り上げた「AR切り絵百鬼夜行絵巻」は、文字のないものだったが、いずれ文字入りの古典籍をARで楽しめる作品も作りたいと考えている。挿絵のアニメーションを楽しみながら、くずし字と現代活字を比較して学べるような仕掛けを作ってもいいかもしれない。


そしてもし、本記事をお読みの中で、こうした表現に興味のある図書館、美術館、博物館関係の方や、研究者の方がいらっしゃったら、何か一緒に作っていくことができたらいいなと思うので、お気軽にお声がけいただけたら嬉しい