掌編「オックー」

ばさ、という軽い音とともに、額に風を感じた。
パソコンから目を上げると、見慣れない鳥がとまっていた。
鳥はとろんとした目でこちらを見て、「オックー」と一声鳴いた。
どうやら気付かぬうちに、オックーが侵入してしまったようだ。



オックーは不思議な鳥だ。
彼らはどこからともなく部屋に入ると、鳴き声をあげる。
その声を聞いた誰もが、まさに「億劫」な気持ちになって、手を付けている作業のやる気をすっかり失ってしまうという。
先日、遅くまで一人で残業していた同僚のもとにオックーが来て、うっかり寝落ちしてしまった、なんて話を聞いたばかりだ。

とりあえず外に放り出してやろう。そうすれば、すぐやる気も戻ってくるはずだ。
そう考えてオックーを捕まえようとしたが、奴はするりと手を摺り抜けて高く飛び上がった。
そして本棚のてっぺんにとまると、また呑気に「オックー」と鳴いた。

10分ほど格闘して、結局オックーを追い出すのを諦めた。
ばたばたしているうちに、追いかける気力もなくなってしまったからだ。
すっかり疲れてベッドにばたんと倒れ込むと、オックーはちょっと体をのばしてこちらを見た。
「オックー」
「うるさいな。あんたのせいで億劫なんだ、なんもかも」
私は目を閉じた。
ちょっと仮眠しよう。
ちょっとだけ…

30分ほどして目が覚めると、オックーはいなくなっていた。
眠ったおかげか、頭と体が軽くなった気がする。
作業に戻ろうとして、ふと一つの考えが頭をかすめた。
ーーー実はオックーは、疲れている人を休ませようとして現れるんじゃないか。
オックーのとぼけた顔を思い出して、私は感謝とともに少しだけ申し訳ない気持ちを感じた。
「ありがとう、また頑張れるよ」
く、と伸びを一つして、私は作業を再開することにした。