【切絵童話】水底のα星(後編) - 切り絵Blog 影織文庫

【切絵童話】水底のα星(後編)

前編はこちらから

----

α星は、思い切ったように顔を上げました。
「俺、あの子の…カナンのところに行ってくるよ。それで、ワドベに会わせてやるんだ」
γ星が驚いてちかちかと瞬きました。
「流れ星になるってのか?そんなことしたらお前…」
「いいさ。そろそろここでぷかぷか漂う生活にも飽きて来たところだ」
α星は北極星を仰ぎました。
「そういうわけで、俺…行ってきます」
「片道切符は承知の上だな?」
「もちろん」
北極星はうむ、と頷いて、己の青い炎をα星に分け与えました。
「旅の幸運を祈る」
「気を付けていけよ」
「あぁ。…じゃあ、行ってきます」
α星はそう言って、大きく深呼吸すると、譲り受けた炎を身にまとい、夜空をぱしゃんと飛び出したのです。

α星が到着したとき、カナンは泣き疲れて眠り込んでいました。
窓ガラスをノックするα星に気づき、カナンは飛び上がりました。
「お、お星様がいるっ!」
「そうだよ、迎えに来たんだ」
「迎えに?私を?なんで?」
「ワドベに会わせてやるためだ」
「ワドベに…!」
カナンはしゅんとうつむきました。
「でも、とっても遠いのよ。お母さんが言ってた。5つの山を越えて、4つの川を越えて、3つの森を抜けて、2つの国の境を超えて、おまけにもひとつ、湖をぐるりと回りこんだその先にワドベの家はあるんだから、って」
「大丈夫さ。5つの山を越えて、4つの川を越えて、3つの森を抜けて、2つの国の境を超えて、おまけにもひとつ、湖をぐるりと回りこんだその先のワドベの家、俺なら夜の間にひとっとびさ。ワドベに会ったら、朝までにちゃんとこの家まで送り届けてやるよ」
「ほんとに?」
「ほんとだ」
「じゃあ、連れて行って!」
「よしきた。さぁ、背中に乗ってくれ!」
カナンを背にα星はふわりと浮き上がると、全速力で走りだしました。
水底のα星切り絵

α星はお得意のドリフト走行で、5つの山を越えて、4つの川を越えて、3つの森を抜けて、2つの国の境を超えて、おまけにもひとつ、湖をぐるりと回りこんだその先のワドベの家まで、あっという間にたどり着いたのです。

カナンが窓ガラスをこつこつとノックするのに気づいて、ワドベは大きく目を開きました。
「あれ…?なんで、ここに」
「会いにきたのよ!元気になって欲しくって、会いにきたんだから!」
カナンは駆け寄って、ワドベの両手をぎゅっと包み込みました。
「元気になってよ。星が3回周ったら、こっちの街に戻ってくるんでしょう。それまでにちゃんと元気にならないと、怒るわよ…!」
ワドベは静かに頷きました。
α星はひたりとワドベの額に触れました。
「あ…冷たい」
「この熱、俺がもらっていってやるよ」
「ありがとう…お星様、」
「もう、カナンを悲しませちゃあダメだからな。早く、元気になるんだぞ」
ワドベはうん、と頷いてゆっくりと目を閉じました。少しずつ呼吸が安定していくのを聞き届け、α星はカナンを背にのせて再び走り出しました。

朝日が昇り始める頃、α星は少女の手のひらに収まるくらい小さくなっていました。
「本当に、ありがとう…でもお星様、こんなに小さくなっちゃったよ…」
「へっへ、そうだな。そのまま海に放してくれないか。そうしたら、俺は深いところで、またぷかりぷかりと泳いでいられる。だから、泣くんじゃない。俺は、お前が笑っているのが一番好きなんだからな」
カナンは涙を拭って頷くと、そっと手を離しました。
「ありがとう、お星様、ありがとう…」
α星は、カナンの声を聴きながら、胸に灯る熱を抱いてゆっくり海の底に沈んでいきました。

*  *  *

波打ち際にほのあかるく光る星形の生き物を見かけて、人はいつからかそれを「ウミノホシ」と呼ぶようになったということです。
ウミノホシ切り絵

【切絵童話】水底のα星(後編) 【切絵童話】水底のα星(後編) Reviewed by 影織 on 6月 07, 2018 Rating: 5