【切絵童話】水底のα星(前編) - 切り絵Blog 影織文庫

【切絵童話】水底のα星(前編)

静かな夜空の日でした。
星達は夢うつつの中、ぷかりぷかりと浮かんでいました。
「よく晴れてるな」
「あぁ、晴れてる」
星達は時間ごと、季節ごとに夜空と地底を巡っていきます。
地底から出てきたばかりのα星は、夜空を流されながら、ぼんやりしていました。
一足先に夜空に姿を現していたγ星は、すいっとα星に近づいて話しかけてきました。
「見てみろよ、あの人間、毎日おれたちに手を合わせてるんだぜ」
暇を持て余した星達は、よく他の恒星を覗き込んで、そこの住人を観察するのです。
α星がひょいと覗き込むと、青い小惑星に住む一人の少女が、一生懸命頭を下げて手を合わせているのが見えました。
「―――ワドベが、早く元気になりますように…早く元気になって、また一緒に遊べますように」
α星が、躊躇いがちにγ星に尋ねます。
「こういう時、どうしたらいいんだろうね」
と言うと、γ星は、面倒臭そうにフゥと小さくため息をつきました。
「手でも振ってやれよ」
α星はちょいと身を乗り出して、ひらひらと手を振ってやりました。
すると少女は、空を指差して大きな声をあげました。
「あっ…お星様、お願い聞いてくれたのね!」
α星はぎょっとして体を起こすと、γ星の方に向き直りました。
「えっ、俺、見えたのかな」
「馬鹿、人間に見えるわけないだろ。何万光年離れてると思ってんだ」
再び目を落とすと、少女はご機嫌で家の中に入っていくところでした。

α星はその日から、少女を観察することにしました。
少女の名前はカナンと言いました。
彼女の祈りの中に出てくるワドベというのは、離れたところに住む彼女の友達なのですが、病気がちで家からあまり出られないようです。カナンは毎日のように身近な出来事を手紙に書き、近くで拾った綺麗な小石や葉っぱを同封してはワドベに送っていました。

α星がちょいと腰をずらして、ワドベの住む家をのぞき込むと、氷を頭にのせ、乾いた席をする少年がベッドにもぐりこんでいるのが見えました。
看病する母親が手紙を読み聞かせると、ワドベは熱でうるんだ眼をさらにきらきらと輝かせて、にっこり笑うのでした。

彼らに何もしてあげられない切なさの中で、α星はせめても、と祈る少女に向かって精一杯手を振ってやるのでした。
「水底のα星」切り絵(祈る少女)


季節が巡って、α星が再び地底に眠る時期が来ました。
「北極星さんや、俺のいない間もあの子を見守っておいてくれ」
寡黙な北極星はうむ、と小さく頷くと、腕組みしてじっと地上に目を落としました。
α星はそれを見て、安心して目を閉じ、夜空の流れに乗って地底へと運ばれていきました。

*  *  *

しばらくぶりにα星が目を覚ますと、北極星は相変わらず険しい顔で地上をじっと見ていました。
「あぁ、おはよう。北極星さんや、あの子はどうだい」
「泣いているぞ」
「泣いて…?」
その言葉を聞くや否や、α星の頭は一気に冴え、電光石火の勢いで身を乗り出し、青の小惑星を覗き込みました。
「おい、なんで泣いている、おい」
「彼女の友達の病状が悪化したらしい」
北極星の答えを肩越しに聞いて、α星は青く光りました。
カナンは手紙を握りしめたまま、うつむいて涙をぽたぽたとこぼし続けています。
α星が慌てて体をねじって見下ろすと、ワドベは高熱にうなされていました。ベッドの隣に立つ医者はひどく険しい顔をしていて、母親は顔をおおって椅子にへたりこんでいます。
ワドべの呟くうわごとが、風に乗ってα星の耳に届きました。
「カナン…カナン、」
そうです。ワドベはカナンを呼んでいるのでした。

<続>
【切絵童話】水底のα星(前編) 【切絵童話】水底のα星(前編) Reviewed by 影織 on 6月 05, 2018 Rating: 5