ずっとずっと前に、旅をした時のこと。

見るもの全てが鮮やかで、ご飯が美味しくて、天気もよくて、楽しくて、人生で一番幸せだ、と感じたことがある。


その当時は、今よりずっと自分の気持ちや周りの人の言動に振り回されていて、人生のベースは不幸だと嘆いていた。

その中で、たまたま好条件が重なって、最大瞬間風速のように幸せな一瞬が訪れ、去っていく。

そういうものだと思っていた。


だからその時、とてつもない多幸感と同時に、もうあとは落ちるしかないという恐怖や悲しみでいっぱいになった。

あんまり幸せで、この最大瞬間風速のまま、死んでしまえたらいいと思った。



最近は、そんな最大瞬間風速のような幸せを感じることがなくなった。

一方で、どん底のような悲しみも感じることがなくなった。

いま思えば、乱高下する中で感じる絶頂の幸せは幸せじゃなく、ただの刺激物だったのだと思う。


幸せはもう少し薄味だ。
薄味。だけど、しっかりゆるぎない。

幸せは、たったひとつの出来事で一気に全て崩れるような、そんな脆いものではない。
幸せはひたひたと満ちていくもの。


いまだって腹立つことも、思う通りにいかないことも、たくさんある。

でも、それらがありながらも幸せでいることはできる。
それらに振り回されない術を身につけられれば。


嫌だと思うことを手放す。求めるものを掴む。

そもそも本当は何が嫌で、何が欲しいのか、自分の中ではっきりさせる。

ネガティブな気持ちを、なぜネガティブだと感じるのか、自問する。


その積み重ねで、周囲の出来事に振り回されにくくなる。

自分と少しずつ対話を重ねることが、一番地味だけれど一番確実な幸せへの道なのだと思う。